リノベーションは「製品」ではなく「サービス」を提供しています。こういう話をすると、不思議な顔をされる方がおられます。
例えば、iPhoneは間違いなく製品です。どんな場所でも、同品質の製品を同価格で購入できます。TOYOTAのプリウスも製品と言えますが、iPhoneのように梱包されているわけではないので、一台ずつ微妙な違いはあるかもしれません。また、購入するディーラーによって、価格やオプションも少しですが違いはあります。もちろん、中古車も製品ですが、それぞれの使用感や状態、売主がディーラーなのか個人店かなどによって新車以上に価格や状態は異なります。
また、製品とサービスの両方を提供している事業者もあります。スターバックスのようなお店は、コーヒーやドリンクなどの製品を提供していますが、同時に雰囲気の良い空間というサービスも提供しています。一方で、美容室やマッサージ店などはほぼサービスを提供しています。
こういう括り方をしていくと、リノベーションというビジネスは製品かサービスか、皆さんも悩まれるのではないでしょうか?TOTOで選定したユニットバスとトイレ、LIXILで選んだキッチンと洗面台、パナソニックで決めたフローリングとドアは間違いなく製品です。ただし、リノベーションに向けた打ち合わせ、プランニング、事前設計や工事は製品ではありません。完成した家だけを見ると製品のようですが、あくまでリノベーションはサービスが主体のビジネスなんです。
リノベーションするお部屋は、仮に同じマンションであっても、部屋によって状況は異なります。もちろん、戸建てではもっと大きく差が出ます。現場によって「そもそもの工法」や「施工した職人のスキル」も異なります。また、どんな現場でも解体してみないと判明しない点があるのも事実です。
工事を発注いただいた方にお渡しする当社独自のリノベーションマニュアルにも記載していますが、リノベーションはサービスだからこそ「事前の打ち合わせ=完成物に対するイメージの共有」がとても大切なんです。さらに言うと、十分に打ち合わせをしていたとしても、実際には「工事の過程で、予定通りに進まない事態が発生する可能性があること」もご理解いただいておく必要があります。
だからこそ、逆説的に「リノベにあまり向いてない人」を挙げるとするならば、「サービスではなく、製品提供を求めている方」と言えるかもしれません。
ワンストップでマイホームを探されている方にもお話しするのですが「中古購入+リノベ」はコストに優れていますが、予算が潤沢にあるならば「新築」の方が自由にできることは間違いありません。
もちろん、私たちにとっても「ムダなコスト削減」は重要な課題ですが、同時に「コストカット=お客さま自身にも我慢していただく点が発生すること」も真実です。飲食店を例にすると分かりやすいのですが、低価格のファミレスと高価格のレストランでは、使われている食材や料理に対する手のかけ方が違うだけでなく、お店の雰囲気やサービスも異なります。高級レストランの素材と調理にこだわった料理は、安価な店では食べれません。安いモノには、必ず「安い」理由があります。
工事内容を例にすると「床の不陸=傾き」は、国土交通省の通達で「6/1000以上の傾きがある場合、瑕疵となる可能性が高い」と定められています。極言すると、工業製品のように真っ直ぐにはならないわけです。同様に、クロスを少しでもキレイに貼りたい場合は、既存壁を一切使わず、下地は必ず新設すべきです。また、意匠性の高い輸入クロスなどを使わないことも重要なポイントです。平均以上のクオリティを求めるには、当然それ相応のコストと手間がかかります。
また、製品とサービスの違いとしては「塗装」も分かりやすいかも知れません。集成材(材木)に指定された品番の塗料を塗っても、仕上がりが「思っていたのと違う」ということはあり得ます。元々の木の色や節目、水分含有量、乾燥具合などによって当然違いが出るからです。また、事前に「イメージ通りに仕上がるか、テスト塗装したい」のであれば、その時間と費用をお客さまご自身で負担する必要があります。
もちろん、当社でもトラブルは「あってはならない」というのが原則ですが、同時にお客さまが設定される予算と希望の中で「叶わないこと」が発生することも事実です。そういった相違を防ぐためには「ていねいな準備」と「事前の情報共有」が大事と考え、昨年からリノベーションマニュアルを整備し、運用をスタートしました。
不動産選びでもリノベーションでも、なにごともメリットとデメリットがあります。私たちは事前準備と情報共有をしっかり行なった上で、お客さまに信頼されるパートナーとして「安心、安全なリノベーション」をこれからもお届けしていきます。
※ サービスの提供を受ける立場から見たリノベーション経験については、ブロガーのちきりんさんが書いた「徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと」も参考になります。