2018年に宅建業者によるインスペクション説明が義務化されただけでなく、2020年4月からは民法でも「契約不適合責任」が重視されるようになりました。
ご存知の方も多いと思いますが、インスペクションとは「専門的な知見を有する人が、建物の劣化や不具合の状況について、目視や計測などによって当該建物の調査を行うこと」です。ただし、義務化されたのはあくまで「制度の説明」であり、インスペクション自体の「実施」ではありません。
既存住宅の売買において、買主は住宅の質や性能に不安を抱えている場合が多いため、建物の状態について確認できる制度が誕生した意義は小さくありません。
それでは、実際にインスペクションの活用が広がっているのかというと、実はそれほどではありません。特に、マンションにおける実施率は1割にも満たないのではないかと思われます。
その理由は、そもそもマンションにおけるインスペクションの対象範囲が「専有部」に限定されているため、構造の不備などについて発見できる可能性が著しく低いからです。厳しい言い方となりますが、スケルトンベースでリノベを考えている方にとっては(有料ながらも)実効性の少ない制度となっています。
当社でも、中古戸建を購入される方には有益な調査としてご提案していますが、マンションの場合は重要事項調査報告や管理組合が実施している建物定期検査、長期修繕計画などでの確認をまずは推奨しています。
もう一つ、インスペクションの実施率が高まらない理由として、国とユーザーの基本的な「考え方」に差があると考えています。
本制度を作った国の意向としては、中古不動産売買が活性化するためには、売主と買主が共に安心できるよう「物件情報の公開性を高めることが重要だ」と考えたのではないでしょうか。
考え方の「あり方」としては、もちろんそれが正論です。
しかし、不動産売却を考える中で、売主としては「良いところはともかく、悪いところが見つかると売りにくくなる」と本心では感じています。売主としては、調査費用を負担して「問題なし」ならいいけれど、仮に問題が発見された場合「価格を下げなければいけない」というリスクや、「販売のために修理(つまり、資金支出)が必要になる」というリスクが生じる訳です。最悪の場合、建物の基礎部分が著しく傷んでいて「売れない」という事態すら想定されます。
通常、費用を負担した場合「何らかのメリット=高く売れる可能性」が高まることを期待するのでしょうが、この制度では(特に築年数を経た中古物件の場合)メリットよりもデメリットを売主は感じているのではないでしょうか。
また、両手仲介(売主及び買主双方の代理人となる媒介契約)が多い日本の不動産取引のスタイルも、インスペクションが一般化しない理由の一つかもしれません。当社は「買主側仲介」に特化していますので、有益と考えられる場合にはインスペクションの実施をおすすめしています。しかし、両手仲介を目指す会社にとっては、どちらかと言えば「触れて欲しくない」仕組みとなっているのも事実です。
上記理由だけとは限りませんが、実態として日本の不動産仲介ビジネスでインスペクションは広まっていません。それでも、(実施するかどうかは別として)このような制度があること自体は良いことです。当社ではお客さまとしっかりご相談しながら、より安心できる不動産取引の実現に取り組んでまいります。